個人としての物語を事実だと思うことが、しだいになくなっていきました。そのプロセスは1年ほどかかって完了したように思います。
過去を手放すというのはじつに気持ちがよくて、すごく素晴らしい軽やかさを感じました。素晴らしいことなんです。人はいつも記憶を失くす心配をしていますが、僕はこう思っています。
「お願いだから、できるだけ早く記憶を失くしてよ。記憶なんてくだらないよ」。記憶がないというのは最高のことです。
口先だけでこんなことを言う人たちがいます。
「存在するのは今だけだ。過去は存在しない。未来も存在しない」
ですがそういう人たちは、それが事実だということを知りません。でもゆっくりと、過去は存在しないということがほんとうに腑に落ちていきます。
子どものころの話をしているとしたら、それは実際のところは今この瞬間にでっちあげられている空想なんです。その空想にはまったく何の現実性もありません。
今があって、眼の前のものごとは今起こっています。それ以外はただの観念、空想にすぎないんです。
(D・A「わかっちゃった人たち」p39)